Carl Zeiss Planar 50mm F2 (Contarex) (その2)

Planarについての与太話の続きです。

なぜか，Zeiss Jenaはダブルガウス型のレンズにはBiotar銘を与え続けたため，Planarは西ドイツでのみ使われたレンズ銘になっていました。Biotarがグルグルボケの古典的なダブルガウス型の代表であるかのようなイメージがあったために，Zeiss Ikonはダブルガウス型レンズを現代的な描写のレンズとしてイメージを刷新しようとしたのではないか，などと妄想は膨らみます。

よく考えてみると，いや，考えるまでもなく，Planar 50mm F2というのは後にも先にもたぶんContarex用しかなかったのではないか，と思われます(言い訳をしておくと，そんなになんでもかんでも詳しく調べたわけじゃないので，取りこぼしがあることは十分に考えられます。あくまでも自分の知る範囲で，という程度の話です)。Contaxレンジファインダー時代にはPlanarはまるで冴えないポジションで廉価版の35mmという扱いでしかありませんでした。もちろん，コーティング技術の進歩があってはじめてPlanarのようなダブルガウス型のレンズ(空気とガラスの境界面がたくさんあるレンズ)が陽の目を見ることになったことは間違いありません。しかし，ルドルフが1897年に発明して以来，ずっと冷や飯食いだったPlanarをZeiss Ikonが改めて前例に捉われずに全力で設計したのがContarex用のPlanar 50mm F2なのだと思わせるに十分な描写力のあるレンズです。

もちろん，21世紀になって2006年にコシナがリリースしたPlanar 50mm F2が存在しますから後にも先にもない，というのは正しくありません。距離環に指かかりをつけたデザインもContarex版Planarへのオマージュと受け取れなくもないのですが，個人的にはZeissのレンズは京セラ/ヤシカのContax/Yashicaマウントのものまでで，その先のコシナやソニー製のものはまったくの別物，と勝手に認識しています。というわけで，50mm F2のPlanarは私の中でなかではContarexだけ，ってことになっているのです。これは単なる主観の話なので，だからどうだ，って話は当然ありません。

macro-switar 50mm F1.8が使いたくてAlpaを使う，というのと同じくらい，Planar 50mm F2が使いたくてContarexを使う，ということにはとても強い説得力があると思います。AlpaもContarexも信じられないような高級カメラだったという点でも妙な共通点があります。ミラーレス一眼でどんなレンズも自由に使えるようになるとは，当時は誰も想像もできなかったでしょうが，実によい時代になったものです。

以下，富士山の続きです。

ILCE-7S / Planar 1:2 f=50mm

50.0mm, F8.0, 1/800, ISO 100 (-1.3EV), WB (Auto)

Apr. 09, 2023, 15:58:37

絞ると画面全体がシャープです。光の捉え方が自然で陰影がリアルです。暗部も結構粘っているようです。ハイライトからシャドーまでダイナミックレンジも広く，富士山の冠雪のグラデーションが見事です。

ILCE-7S / Planar 1:2 f=50mm

50.0mm, F4.0, 1/1600, ISO 100 (-0.7EV), WB (Auto)

Apr. 09, 2023, 16:06:37

開放はちょっと苦しいだろうとヒヨって1段絞っています。構図的にピント位置がまずくて画面上部の手前の花にピントを合わせたのはどう考えても失敗写真でしかありません。でも，なんとなくこの画は残してしまいました。独特のちょっとトロッとした空気感が写っていたからでしょうか。こういう画はARマウントのHexanonレンズでもときどき撮れたりしましたが，どういう光の条件でこんなふうになるのかよくわかりません。

ILCE-7S / Planar 1:2 f=50mm

50.0mm, F8.0, 1/250, ISO 100, WB (Auto)

Apr. 10, 2023, 10:24:21

河口湖畔の大石公園からの富士山です。観光テイスト満載で王道をいく画でしょうか。絞ってますが少し周辺減光がみられます。Distagonの25mm F2.8や35mm F4に比べれば周辺減光はずっとマイルドです。また，画面全体で均質な画質です。霞んでいますが富士山中腹にも階調が残っていて冠雪のハイライトだけではなくちゃんと見たままの雰囲気を伝えてくれます。

ILCE-7S / Planar 1:2 f=50mm

50.0mm, F8.0, 1/400, ISO 100 (+0.3EV), WB (Auto)

Apr. 10, 2023, 10:32:47

いかにもありがちな構図ですが，絞って背景の概形がわかるような画にすることも当然のようにできます。これは寄れるレンズの特権です。桜の花弁を透過する光が美しく，花弁の質感や厚みまでわかるようです。背景の富士山もちゃんとそれとわかるように残っています。