STAEBLE-LINEOGON 35mm F3.5

STAEBLE OPTIK STAEBLE-LINEOGON 1:3,5/35
マウント:Paxette M39
焦点距離:35mm
開放F値:3.5
絞り羽根:10枚
レンズ構成:4群4枚
最短撮影距離:1.0m
フィルター径:40.5mm
質量:124g (実測値)

Carl Braun Camera Factoryが1952年にリリースしたレンズ交換式のカメラPaxette II用の交換レンズです。Paxette IIはフランジバックが44mmで,39mm径,ピッチ1mm (M39)のねじ込み式マウントをもつ小型のカメラです。Paxette IIには距離計がない目測式,距離計はあるがレンズと連動しないもの,レンズと連動するレンジファインダーのあるもの,と大きく分けて3種類あるようです。距離計に連動するレンズには銘板に-E-という刻印がついているようですが,ついていないのに連動するものがあったりするようで,一貫性はあまりないのかもしれません。

STAEBLE OPTIKは日本ではあまり馴染みのない光学メーカーですが,ドイツ語のwikipediaによると1908年にFranz Staeble博士によって創立されています。第二次世界大戦中はドイツ空軍のための光学機器を作っていたようですが,終戦後はプロジェクタ用レンズやカメラレンズを作っていたようです。Stableが作ったカメラ用レンズのなかではPaxette用のレンズは重要な位置を占めていたと思われます。STAEBLE OPTIKがPaxette IIのために作ったM39マウントのレンズのリストを見つけることはできなかったのですが,eBayあたりに出品されているものをざっと見た限りでは,35mm, 38mm, 45mm?, 50mm, 85mm, 90mm?, 135mmとほぼ完全なフルラインナップを構成していたようです。「?」がついている焦点距離は私の勘違いの可能性が高い焦点距離です(「?」のついた焦点距離のレンズはレンズ固定式の初代Paxetteにのみ供給されていたのかもしれないため)。

ここで取り上げるSTAEBLE-LINEOGON 1:3,5/35はM39マウントのPaxette II用の交換レンズです。Paxette用レンズとしてはもっとも広角をカバーするレンズだったかもしれません。当時は(現在もそうかもしれませんが),広角よりは望遠のほうが需要が高かったのでしょう。某マエストロの考察によると,3群3枚のトリプレットに第1群を追加して焦点距離が35mmとなるように調整した4群4枚の「変形トリプレット型」ということです。4群4枚といえば脊髄反射的にエルノスター型を思い浮かべてしまいますが絞りの位置が異なりますし,エルノスター型は望遠レンズ向けであることを考えると,広角レンズの基本設計として標準域のトリプレットをベースに広角化をはかったと考えるのは合理的であると思います。

コンパクトなレンズで,コンパクトなカメラであったPaxetteによくマッチしています。この個体はPaxette II用レンズのなかでも早い時期のモデルのようで距離計には連動しません。モノクロ時代のレンズらしくモノクロで撮影した場合には滑らかな階調表現をする印象です。

というわけで,Leica M Monochrome (Typ 246)に装着して撮影した例をあげます。以下のカットはいずれもraw画像をdarktableを使って現像したものです。露出の調整とfilmic rgbによるコントラストの調整,tone equalizerによる調整を手動で行っています。現像してみるとカメラの画像処理エンジンのほうが気の利いた画を吐き出していることも多いのですが,めげずに自分で現像してみました。

LEICA M MONOCHROM (Typ 246) / LINEOGON 1:3.5/35
35.0mm, F8.0, 1/60, ISO 3200 (-0.664EV)
Nov. 06, 2021, 15:52:47
普通に写ってます。絞っていますが背景は結構ボケています。ピントが来ているところの解像感はそれなりにあるのですがF8まで絞っている割には甘い印象です(広角レンズにもかかわらず...)。もっともたんなるピンボケかもしれません。

LEICA M MONOCHROM (Typ 246) / LINEOGON 1:3.5/35
35.0mm, F8.0, 1/125, ISO 2000 (-0.664EV)
Nov. 06, 2021, 15:49:47
同じカットを開放でも撮っているのですが,あまり解像感に違いはありませんでした。何か,根本的に間違えて写真を撮っているのかもしれません。現像の過程でコントラストは調整していますが,基本的に出てきた画はカメラの画像処理エンジンが吐き出すものと大きくは違っていない,と認識しています。なので,そんなに滅茶苦茶なレタッチをしているわけではないはずです。モノクロフィルム時代のレンズらしく,コントラストよりも階調を優先した光学設計なのかもしれません。

LEICA M MONOCHROM (Typ 246) / LINEOGON 1:3.5/35
35.0mm, F11.0, 1/500, ISO 320 (-0.664EV)
Nov. 07, 2021, 10:16:11
そもそも等倍で見るようなレンズではないのだと思います。小さな画で見ると結構ちゃんと解像しているように見えますが等倍で見ると甘くてどこにピントが来ているのかもイマイチわからないくらいです。F11まで絞っていますが画面は均質に甘い,という絞っていることを忘れてしまいそうな感じです。もちろん,絞っているからこそ均質な画になっているので絞ることの意義は発揮されているのですが,当然ですが,イマドキのかっちり,くっきりを求めるレンズではありません。

LEICA M MONOCHROM (Typ 246) / LINEOGON 1:3.5/35
35.0mm, F11.0, 1/360, ISO 320 (-0.664EV)
Nov. 07, 2021, 10:01:10
甘い甘いといっていますが,絞ればレンガ一枚一枚,まったく違和感なくちゃんと解像していることがわかります。暗部はあっさり潰れていますが,これは現像の時の設定にも依存するのでなんとも言えません。暗部を持ち上げれればそれなりに写っています。そういう意味ではちゃんと明暗差に対する粘りを見せていると言えます。

解像感があるのかないのか,謎なレンズです。階調性にベクトルを振っていると思われる描写から,たぶんモノクロフィルムで撮るには十分な性能だったであろうことが推察されます。Paxette用廉価レンズだからといって侮れない描写だと思います。

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